69 聴診器と電子カルテ
(2002.01.07up)
以下の文章は筆者の瀬田勝之先生の許可を得て転載しております。
聴診器と電子カルテ
群馬県前橋市医師会
瀬田勝之
(この文章は群馬県医師会誌にて発表された文章です)
「良い医師は聴診器を通して病変だけでなく患者の心を聞いていた」
(多田富雄著 「ビルマの鳥の木」より引用)
聴診器は19世紀初頭より使われている歴史ある診察器具ですが最新の医療機器が使われている現在の医療現場でも多くの医師に愛用されています。
自動血圧計という便利なものがありますが、私は患者さんの血圧は必ず自分で測ります。カフを巻く時に患者さんに直接触れることで皮膚の具合や脈の打ち方、聴診器を当てながら見る患者さんの表情などから身体の状態、またそのあいだの何気ない会話などから患者さんの精神状態なども一緒に分かり患者さんとの間に信頼関係が増すと考えているからです。
また、患者さんに直接カルテを見てもらい診療の経過などを理解して戴くことも信頼関係を増す上で役立つのではないかと考え電子カルテでの診療内容の開示・公開を昨年(2000年)8月より始めました。
カルテは医療関係者の情報伝達手段だけでなくましてや医師のメモ帳的存在などではありません。カルテは患者さん個人並びに保険者にその行われた医療の内容を説明する資料です。又、近年診療内容の開示と公開が医療側に要求されておりそれに応えるための資料でもあります。
近頃、電子カルテという言葉や記事がしばしばマスコミや医学雑誌に取り上げられています。この背景にはコンピューターを使う医師の増加及びこれら機器の高性能化と価格の低廉化という技術的側面と国民の医療情報開示・公開要求への対応や医療費抑制などに電子カルテが役立つのではないか考えられている社会的側面があります。
電子カルテには欠点もありますが紙カルテでは出来ない多くの利点もあります。
1. 記録様式の標準化。表現が紙カルテでは英語、ドイツ語、日本語、符丁などが混在しまた医師個人の筆跡にくせがあり記入者にしか読めないことが多いですが日本語入力の電子カルテなら誰でも読めます。
紙カルテにも電子カルテにも共通することですが、標準化された医学用語、検査名、病名で記載すればカルテの記録が標準化されます。電子カルテはこの標準化が容易です。
2.情報の利用が容易。文字や図表の他静止画、動画等多様の情報を扱え、データの検索、抽出、加工、複写、印刷が容易に出来ます。データのグラフ化は今まで分からなかったことを明らかにする事が出来ます。LAN上のどこからでも電子カルテにアクセスして複数の医師が同じカルテを見ることが出来ます。
3.物理的に有利。保管庫は必要なくカルテの取り出し、バックアップが容易でCD等の複数の電子媒体にコピー出来いざという時持ち出せます。落雷、停電は最大の敵ですが停電はUPS(無停電電源装置)で回避出来ます。
現在、私が日常診療で実践している電子カルテによる診療情報の開示・公開のささやかな試みを紹介致します。
診察の時、患者さんにキーボードとマウスから日本語入力した診療記事をモニターで見てもらっています。ドイツ語や英語や略語更に癖字の日本語を織り交ぜて書いた今までの私のカルテは患者さんにはまず読めません。
病歴や症状などを入力しますと患者さんはモニターを真剣に見ております。診療記録が読めてその内容が分かるからです。
各種の診療データを電子カルテで閲覧すれば資料を探し出す職員の時間と手間が省け、その分患者さんへの応対時間が長く取れます。
レントゲン写真、心電図、エコー写真、内視鏡写真、皮膚病変などの画像をモニターに表示し、必要に応じて拡大表示したり過去と現在の画像を比較表示します。血液検査データなどをグラフ表示しますと病気の変化の状態、即ち良くなったか悪くなったかが一目瞭然に分かり病状の説明に威力を発揮します。患者さんには耳と眼の両方から情報が入りますので強い印象を与えます。患者さんと一緒にそれを見ながら病状や治療方法の説明や生活指導のアドバイスなどをしています。
今までは当院製の健康手帳に検査データを書き込んで説明していましたが数字の羅列は病状の変化を知ってもらうのにはいま一つ力不足でした。グラフ表示したデータをプリントして渡しますと患者さんは真剣に見ております。結果が良いと喜び悪いと反省しています。
また例えば心臓の精密検査が必要な患者さんなどにはイラストや心血管造影の動画をモニターで見て戴き心臓の検査方法を具体的に説明しています。これは患者さんに検査の必要性を理解して戴く上で大変役立っています。
診療支援システムには品質管理機能としての各種のチェック機能やデータの検索、抽出、加工、複写、印刷などの機能があります。
例えば処方の投与量や配合禁忌のチェックが出来ます。
又、電子カルテでは薬剤情報提供書が印刷出来ます。特に某社の写真付薬剤情報印刷ソフトと連動して印刷する薬剤情報提供書はカラー印刷なのできれいで分かり易く、更に当院で使っている透明薬袋ならば医療側と患者さん側との双方で薬の確認が出来服薬指導に有用です。
診療面では充実したレセプト発行機能を持っていて電子カルテ機能と共に言わば車の両輪をなしています。
診療記録、薬歴、検査データ、画像等をMOやCDなどに複写出来ます。今年(2001年)6月東大病院通院中の方が前橋に来られた時当院を受診されました。帰る時胸部写真や血液検査データなどを複写したFDを紹介状と一緒に持っていって戴きました。
この機能を拡張すれば転院する患者さんなどには患者さん自身の診療録や画像や血液検査データ等をCDなどに複写したもの即ち、患者さん自身のカルテを作って差し上げることも可能です。
プライバシー保護の上で倫理的な問題がありますが、セキュリテイ保護の技術も進歩しており、患者さんの合意が得られれば診療記録や画像などの医療情報を医療施設間で自由にやり取りでき、患者さんの全病歴が参照出来ますので、不必要な医療は減少します。また医療機関相互のカルテ公開は医療の質を高めると期待されています。
時々患者さんに電子カルテについての印象をお聞きしますと皆さんが良く分かりとても良いと言ってくれます。このことだけでも私は電子カルテ使っていて良かったなと思っています。
私は聴診器だけでなく電子カルテを通して患者さんとの間に信頼関係を醸成し冒頭の言葉にあるように患者さんの心が聞けるようになりたいと考えています。
現在私の使っているソフトを紹介します。
電子カルテ・レセコンシステムはDynamicsといい大阪の開業医吉原正彦先生の著作です。
画像ファイリングシステムはRS_BaseといいDynamicsと連動していて広島の開業医山下郡司先生の著作です。
尚、電子カルテ探索記録とDynamics導入記を私のHPに載せてあります。
URL;http://med.wind.ne.jp/setaclin/(クリックするとジャンプします)