72 在宅医療とIT・・・組織のIT化による合理化
(2002.02.21up)

以下の文章は鹿児島県医師会報2002年2月号に掲載されたのを許可を得て転載しています。


鹿児島市医師会 中野一司先生

「在宅医療とIT」

「 電子カルテ : ダイナミクス」


前号では、組織内IT化に最重要な作業は、そのニーズを発見、発掘することである、
と書いた。「ニーズは現場から」というこのコンセプトで開発された無床診療所向け
電子カルテシステムがダイナミクスである。今回は、当クリニックでも導入してい
る、この電子カルテ・ダイナミクスについて述べ、ダイナミクスの中にみるIT革命の
意味につき解説してみたい。

ダイナミクスの開発者は、大阪の開業医である吉原正彦氏である。このソフトの特徴 は、
1)その値段の破格的な安さ(ソフト使用料、サポート料込みで、年間費用、導
   入年度30万円、2年以降15万円)と、
2)ソフト自体の爆発的進化速度である。これら
  のことを可能とするツールそのものが、ITであり、安くて良い物を提供できるところ に、
 IT革命の本質が隠されている。

一般的に100万円の車が1000万円の車より性能 が良いということはないが、10万円の
ソフトが100万円のソフトより抜群に性能が良いということがありえるのが、ITの世界である。


ダイナミクスは現在、400名弱のユーザーを抱え、メーリングリスト上で、ソフトの
開発、サポート、情報交換が行われている。これらの情報交換の中で、ソフトがどん
どん進化していく。ユーザーの全ては、現場の一線の開業医であり、開業医のニーズ
を直接拾い上げることで、ダイナミクスは進化していく。その進化の速度は、想像を
絶するもので、2、3ヶ月に1回のマイナーチェンジと、6ヶ月に1回ほどのバージョン
アップという速度である。このことが可能なのは、開発者である吉原氏の天才的頭脳
がベースにあることは、言うまでもない。

一方、このソフトが、メーリングリスト上で開発されるということは、IT革命の持
つ意味を考える上で、非常に興味深い。メーリングリストの使用料は原則的に無料
で、開発に必要な情報交換の費用が限りなく安いということである。このことがダイ
ナミクスに非常識なほどの低価格化をもたらす
ダイナミクスの開発を商売と考えな い吉原氏のボランティア精神が、この低価格の
第1の原因であることを別にすれば
)。


また、ダイナミクスのサポートは、原則的にインターネット上で行われ、バージョン
アップもサポートホームページから直接ダウンロードして行う。この意味では、ある
程度コンピュータがいじれる人(医師である必要はない)がいないと導入が困難で、
この点がダイナミクスの唯一の欠点なのかも知れない。しかし、コンピュータはあく
まで道具であって、触ってナンボの世界である。ワープロが打てて、電子メールの出
来る人なら、誰でもダイナミクスは扱えるし、当クリニックのスタッフ5人全員もダ
イナミクスを使っている。

 当クリニックでは、1999年12月31日にダイナ試用版(Ver7)を入手し、2000年6月
からレセコン+紹介状作成マシンとして、ダイナミクスの本格使用を開始した
(Ver10)
。そして、2001年6月から、電子カルテとしての運用を開始した(Ver12)
が、未だ紙カルテとの併用である。現在訪問診療から帰ってきてから、LAN上でダイ
ナミクスにカルテ所見を入力しているが、この10月にリリースされたVer13からはモ
バイルダイナ(出先ダイナ)(訪問診療時に直接入力し、クリニックに帰ってからLAN
上で所見を入力するシステム)を利用して、いよいよ本格的なペーパーレスが実現
する予定である。(このようなシステム開発が実現できるのは、メーリングリスト上で
ユーザーのニーズを直接吸収でき、それがソフト開発に反映されるからである。)
 当クリニック内でのペーパーレスはすぐにでも実現できるが、他の連携施設との情
報交換が紙ベースで行っているため、紙カルテは残し、ダイナの所見は1ヶ月に1回は
プリントアウトしようと考えている。(カルテの改竄性を問われるなら、毎日プリン
トアウトしなくてはならないのかも知れない。しかし、見方を変えると、紙カルテの
方が、よっぽど改竄し易い。)このように、段階を追ってその使用法を進化させてい
けるのが、ダイナミクスの大きな特徴である。
 よく、診療請求は現在使用中のレセコン(まだリースが残っているので)で、電子
カルテは画像も扱える別のものが欲しいという声を聞くことがあるが、このような導
入は“医者の道楽”であって、お奨めできない。レセコン機能を包括しない電子カル
テシステムは意味がない、と私は考える。電子カルテは、その入力情報が、他の作業
(例えば保険請求事務業務など)に反映されてはじめて、導入効果が期待できる。
組織全体の業務の省力化を伴わない電子カルテの導入は、医師に負荷がかかるだけで、
止めたほうが賢明だろう。

一般的には、電子カルテという言葉の響きが良く、あれもできる、これもできると、
何か電子カルテを導入しただけで、組織のIT化が一気に実現するような錯覚を受け
るわけだが、現実はそんな甘くない。電子カルテ(IT化)は、あくまで道具(手段)であり、
目的は組織のIT化による合理化(楽して、儲けて、そして仕事の質を上げること)である。

組織のIT化は、一気に実現するものではなく、時間をかけて行う必要がある。そし
て、組織のIT化には、業務のどの部分をIT化したいのかの現場のニーズをはっき
りさせることが最重要でであることを、再度強調したい。